ドラマ「私の家政夫ナギサさん」って不思議な話
2020年7月期、観るつもりもなく最後まで見続けたドラマです。何と言っても、「鹿男あをによし」(2008)のときから好きな多部未華子が主演というところに惹かれ、見始めたら、まさかね⁈ という展開が続き、結局特別編まで見てしまいました。腑に落ちづらいからつい続きを見るという不思議な話でしたね。
あらすじ(ネタバレです)
製薬会社の優秀な28歳の社員メイ(多部未華子)ですが、家事は苦手で家のなかはゴチャゴチャ。それを見かねた妹(趣里)が家事代行サービス会社で働いていて、そこのトップ家政夫をメイのためにスポット契約して派遣してくれた。それが50代のおじさんナギサさん(大森南朋)だった。
「ええ、こんな人に洗濯とかやってもらうのは、ちょっとなあ」と思うメイだったけれども、短時間できれいに片づけて、美味しい夕食も作ってくれ、探していたイヤリングなども見つけておいてくれる、真面目で出すぎたところのないナギサを「お母さんみたい!」と信頼するようになり、レギュラー契約に至る。
婚活などにも手は出すものの、MR(薬を病院に出向いて医師に営業する仕事)でチームリーダーにもなっているメイは、激務過ぎてなかなかそっちはうまく進まない。ライバル会社のイケメン独身MR田所(瀬戸康史)とはマンションの部屋が隣同士ということも分かり、なにかと話すようになり、年頃も雰囲気もお似合いの二人はだんだんひかれあうようになる……のかと思いきや……。
メイの家族の問題解決にも一役買ったナギサへの好感度はどんどんあがり、田所も部屋の中はゴチャゴチャタイプだということも分かってきて、似たもの同士の田所よりも、「癒してくれる」ナギサに心ひかれていくメイ。
実は昔MRでもあったという過去を持つナギサが会社員時代に部下を救えなかった…と悔やんでいるのを知って、誤解を解くことに一肌脱ぐメイ。ナギサもメイへの信頼を持つようになる。そして、ナギサに転勤命令がきて、もうメイの家には来られない事態に。ナギサを手放したくないと思ったメイは勢いで「結婚しませんか」ともちかける……。
あれれ、これって「逃げ恥」路線の進化系の展開?
あれなんか急に、恋ダンスで有名なドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(2016)のような、展開に?と戸惑いました。
つまり、年下の可愛い女性から、年上の一見縁遠そうな男性へのプロポーズ!という形に、デジャブ感があったわけです。(「逃げ恥」では本当の結婚ではなく表向きはそういうことにして、無職の女子が家事を給与制で引き受けた形の契約結婚でしたが)今回のメイは結構稼ぎもいいですし、多部未華子のルックスですから、そんないい条件の女子からの50過ぎのおじさんへのプロポーズっていう、もっとなんていうか「ありえない感」がある展開。「逃げ恥」と同じ<TBS/22:00枠>だからって、そういう路線でさらに設定を進化させるためだけに、つくった筋書では??と思いましたよ。
でも、もともと原作漫画はあるようなので、ドラマのための脚本ではなかったんですけどね……。(きっと漫画の表現ではもっと印象が違うハズで、魅力ある作品だと予想しますが)
初回に流れるあいみょんのイメージソングに困惑
オリジナル脚本かどうかは、さておき、このドラマを見ているだけの視聴者にも、この「メイとナギサ」が「恋をする」という展開に違和感をもたれないように、描かないといけないんですけど、第1回目から耳に入ってくる「この~恋が~」というあいみょんの主題歌の歌詞の内容がなんか早すぎましたよね。
全然画面は「ホームコメディ」系なんですよ。ナギサとメイの間には恋愛感情が芽生える予感が全くないのに、「この~恋が~」という歌声がかぶさってくる。この違和感はすごすぎた。もちろんこの主題歌「裸の心」(byあいみょん)は素晴らしいんですよ!よい曲なので、耳に残るのです。(問題はこのタイミングでかけるのか?という、演出の方の責任)
そのとき、もしかしてもしかするとこれって、この二人のラブストーリーなの?という予感はしたけれども、「まさかね!」と思ったものでした。それが本当にそういう展開に強引になっていったので、「ごめん、逃げ恥の方はちゃんとラブストーリーだったよ、比べてすみません!!」とガッキーと星野源に心の中で謝りました。
視聴者に、ラブストーリーのドキドキ感を与えないまま、ナギサさんとメイの結婚話が進んじゃった感がありますね。
これは恋の話ではない、幸せな結婚とは?という話
だけども、特別版までみて分かったけれども、決して不幸せな感じはしないんですよね。むしろすごくメイとナギサの新婚生活は幸せそう。
つまり、主題歌は「この~恋が~」とうたっているけど、ドラマとしては「恋愛」ではなく「結婚」、それも家族や上司が相手を見立ててくれる「お見合い結婚」現代版を描いていたのではないでしょうか。
若いうちは親がすすめる相手などには見向きもせず、自分で出会った相手と恋愛を経て結婚するということにこだわるものだけれども、メイは違う。
妹や母や女性上司が「いい」と思っているナギサをちゃんと選べる賢い女性なのだった。
年齢的にもバランスのとれ、社会的地位のある医師やイケメン同業会社員などからも好意をもたれ、結婚を前提につきあうことを望まれているにもかかわらず、母性に目覚めた家政夫を選ぶ。それってものすごい老成した判断ですよね。「お見合い感」がある……。
多分、特殊な組み合わせだとは思うけど、人からは「?」と思われても、メイにはこの選択がよかったってことなんでしょう。
結婚というのは、人がうらやむような相手とするのが幸せだということではなくて、婚活パーティーとかで探すのでもなくて、自分をよく知っている家族が見つけた相手とのお見合いみたいなものもいいよ!という教訓も得られるのではないでしょうか。
見どころポイント
①キャスト
多部未華子が可愛いよね。セリフの発音の仕方がいいよね。「さ」の音の発音が可愛い。メイの特殊な性格をよく演じていたよね。(家事の苦手な母の血を受け継いでいる優等生的でポジティブな性格?)
メイがバリバリのキャリア志向として登場していたら、夫に家事を押し付けて、家政婦としての価値しか見出していない嫌なヤツになってしまう可能性が高いわけだけど、ちゃんと可愛げを持っているから、みんなから嫌われないでよかった。
大森南朋も役づくり大変だったと思うけど、いつもと別人でした。牙を抜かれたライオンのような……。母親のような包容力がある超真面目な人間になりきってました。年上なのに説教っぽさもあまりなく、こまごまとしていて、いくつものタスクを同時に丁寧にこなさなければならない家事を好んでやれる……そういう日の当たらない雑事を永続的に続けられる男性が実在する可能性は低いと思うけども、ナギサはその少ない一人なんだろうな、と思わせてくれました。
②結婚するときの基準について考えさせられる
よくも悪くも、意外な組み合わせのメイとナギサ。
これからはオリジナルの基準で結婚を考えようというメッセージを提示したともいえるのでは?女性でも自分で稼ぎ、男性に地位を求めず、優しい誠実な人と結婚する、そういう時代を先取りしている感がありました。
でも有能な家政婦(家政夫)と仕事人間が結婚するのが効率いいっていうのは古いかもしれないね。
③やはりみんな家事には困っているんだなと思えた
女性だから家事ができるとは限らないし、仕事ができる人が家事もできるとは限らない。家事をこなすって、何か特別な能力なのではいでしょうか?
多分、現代の思想に反しているから、みんな苦手になってしまうんじゃないかな。だって家事っていうのは、ある程度手をかけて、それを喜ばれるから、意味があるものでしょう?
今はものすごい宣伝費をかけて昨日より家事の手を抜きましょう!という家電とか、サービスがどんどん誘惑してくる時代。
親の時代の家事の極意がどんどん古くなって受け継がれない。だから、みんな困ってしまう。
どうせ汚すのになんで掃除?一瞬で食べ終わるのに、なんで何時間もかけて食事を用意する?洗ったそばからまた食器洗い……なんで?
掃除はロボットでよくない?紙皿に買って来た総菜でよくない?てか食事はサプリでよくない?となっていくよね…効率重視なメッセージと日々の家事をやっている人の労力は全然かみ合わないんですよね。
でも、一方で家事には喜びもある。それを知っている人は実は魅力的なんじゃないかな。そんな気がしてくるドラマです。