海辺から半歩下がって綴る《ドラマ・映画の話》

海辺でのんびりするのも、本もドラマも映画も好き!つまらなくても、面白くても、見たままログ。

映画 青春デンデケデケデケ〜大林宣彦作品〜感想

最近の人も観ていてほしい昔(1992年公開)の映画の一つです。

バンドの映画っていろいろあるけど、これは染みる。最後の防波堤のシーンでジーンときてしまう。

 

高校生のバンドがプロになるとかそういうのではなくて、文化祭で盛り上がるっていうところがピークなのがよい。でんでけってエレキギターの音(ベンチャーズの「パイプライン」)です。その音に痺れて、バンドを組んで、ロックをやりたいって思う普通の高校生、竹良(あだ名:ちっくん)と仲間達の青春が、描かれている。

バンドはメンバーが居なくてはできない事なので、主人公ちっくんは、メンバー集めから始めるのです。幼なじみのお寺の子、富士男に声をかけて、将棋部から引き抜き、ベース兼ボーカルに。さらにブラスバンドの太鼓をやっている巧をドラムに引き抜く。ギターのうまい白石くん(これは浅野忠信が演じている)にも声をかけ、集まった仲間とバイトして楽器を揃える。ちっくんは当然ギターで、ボーカルもやる。バンド名は白石くんの提案、ロッキン・ホースメンに。そういうところから出来上がっていく物語。美しくて、温かくて、いいな〜と思う映画です。

 

ちなみにちっくん役は今もドラマなどで見かける林泰文さんが自然に演じている。かなりよい。

 

この時代、というかこの作品の印象はまず、少年たちを見守る世界が豊かだな、ということ。学校の英語の寺内先生が良い。演じるのは岸部一徳さん。バンドのために第二軽音部を作る提案をしたり、顧問になったりして、さすが元ザ・タイガース、協力的。

ちっくんの家族は距離感がいい。お父さんはベンガルさんで理科の先生で釣り好きで、突飛な俳句を作る。お母さんは、華道や茶道の先生もやってるテキパキ派。演じるのは根岸季衣さん。お兄さんは尾美としのり。邪魔しないで部活の一つとして見守る感じ。

友達の家族もよい。

白石くんのお家は魚屋さんなのですが、洋楽好きなお姉さんが非常に良いサポーター。

ドラムの巧のお母さんも祖母もコンサートには熱量を持って来てくれるし。

富士男はすごい良いキャラであらゆる面で気が利くのよね。本人がちっくんの最大のサポーターよね。お坊さんのお父さんは寺でロックの練習は許してくれなかったりする。けれども、ちゃんと見守ってる。

クラスの女子達も良い。応援してくれるし、1日だけのデートもあるしね。観客がわーっと盛り上がる文化祭シーンへと繋がる。

 

さて、部活にはなったけれど、練習場所がなくて、野外で練習する事が多いんですが、この屋外シーンが美しい。それがこの映画の素晴らしいところ。

紅葉した落ち葉のきれいな場所とか渓谷での合宿とか…練習シーンが画になっている。いい感じ。

 

大林監督、少女を主人公にした映画が多く、名作もありますが、クセもある。これは男子高校生が中心なためか、見やすい。ちっくんによるナレーションでいろいろ解説してくれるというテイストなので、それも分かりやすさの理由かも。

例えば、アンプを自作して提供してくれたシーさんという、殿と呼びたくなるような友達に対するちっくんの心情も、武士の姿で、かたじけない!というちっくんのナレーションと共に、殿と姫姿で見送るシーさん兄妹の映像がテンポよく入る。いかにも大林監督っぽい。

ちっくんのお父さんが8年後に亡くなるとか、そういう切ない情報もナレーションで入ってくる。ベンガルさん、いい味出してる。ちっくんと2人で釣りに行くシーンは良い。高校生の時は分からないから、お父さんの有り難みとか。この未来のちっくんからの視点みたいなものが重なり、ノスタルジー感を出してるんだと思う。

岸部一徳さん演じる寺内先生も、回想ナレーションシーンにて亡くなるエピソードがあり、切ない。

 

舞台は1960年代末頃の四国の観音寺という町なんだけど、後年、観音寺出身の人に会ったとき、この映画の話、しなかった…町の人、やはり、この映画好きだと思うんだけど、どうなの?今どんな風に街並みは変わったの?とか、聞きたかった…。

 

文化祭で盛り上がった「ジョニー・B・グッド」など音楽も印象に残っている。随所にロックなど音楽は盛りだくさん。バンドの映画なんだから演奏シーンがかっこよく撮れてないといけない訳で。ちゃんとカッコいいのもさすが大林組といったところでしょうか。バンドのカッコ良さに大きく貢献してるのは、やはり白石くん、すなわち浅野忠信ですけどね。スター性は隠せるもんじゃないのですね。

全般音楽は映像を引き立てて、クレジットには久石譲の名が。

 

音楽もいいけどただのバンド映画じゃない。

稀有な、青春作品になっている。

高校は卒業しないといけない。高校生のままではいられない。電車に乗って、ちっくんが大学受験に挑みに行くシーンがさりげないんですが、重みがある。少年がゆっくり成長していく姿に感動する。

富士男や巧、白石達が地元で家業を継ぐ中、ちっくんはまだ何になるのか見えてない。

試験前に、彷徨うちっくん。揺らいでる。その気持ち、分かる気がするし、それを、仲間も当然分かっていて、彷徨うちっくんの帰りを家の近くで待っている。戻ったちっくんは、そこで大切なものを仲間から受け取る。

それが、最初にも書いたラストの防波堤のシーンに。原作小説もいいけど、このシーンに、少年たちよ、大人になる前に、バンドやってよかったね!としみじみ思う。

いや〜映画ってホントいいですね。