「ラストレター」は見よう!
岩井俊二監督の映画「ラストレター」(2020年作品)よかったです。岩井組のカラーが出演者に表れています。
・松たかこ
・庵野秀明
・中山美穂
・豊川悦司
……いいよね〜!
それにプラスして、
・福山雅治
・広瀬すず
・森 七菜
……ですもんね。
これ以上ない!という布陣。
岩井監督は、庵野秀明の実写映画「式日」で俳優として監督役を自然体で演じており、その時の恩返しのように、庵野監督も松たかこさんの夫という重要な役を引き受けたのではないでしょうか?
「新世紀エヴァンゲリオン」の新作劇場版「シン・エヴァ」の公開も話題となっている庵野監督に、「もののけ漫画を描いている漫画家」…という設定がぴったりでしたし、妻(松たかこ)のスマホに表示された妻の初恋の男(福山雅治)からのメッセージを見てしまい、嫉妬して風呂にスマホを投げ込むという大事なシーンをとても上手に演じてます。
「四月物語」や「Love Letter」を好きなら、絶対観るべき!
松たかこ演じる裕里(ゆうり)の姉・未咲(みさき)の死で、傷ついた家族や元恋人たちの心が、時空を超えて、修復される感じ。
岩井監督ならではの美しい映像と脚本のマジカルなシンクロのハーモニー。堪能しました。
過去の自分と現在が表裏一体な世界
(以下、感想とともにネタバレありです)
松たかこ演じる裕里の高校生時代を森七菜、亡くなった姉の未咲の高校生時代を広瀬すず、福山雅治演じる、作家の鏡史郎の高校生時代を神木隆之介が演じてます。
3人は同じ高校に通っていて、妹の裕里は生物部で鏡史郎と先輩・後輩の関係。姉の未咲は生徒会の会長を務める優等生で、鏡史郎と同じ学年で同じクラス。鏡史郎は未咲に恋しているけれど、その時書いたラブレターは裕里が受け取るだけ受け取って姉に渡していなかったので、実は未咲には読んでもらえなかったということがあったんですよね。結局それがバレて、裕里は鏡史郎が好きだと伝えるのだけど…。
3人の三角関係が、みずみずしく描かれます。
そして、現在……。
庵野秀明演じる岸部宗二郎と裕里夫妻の娘、颯香(ふうか)を、再び森七菜が、姉の未咲の娘、遠野鮎美(あゆみ)を再び広瀬すず、が演じています。
亡くなった姉・未咲のふりをする裕里と裕里の初恋の人である鏡史郎は、高校同窓会で25年ぶりに再会し、いろいろやり取りしている途中で裕里のスマホが水没したので、(やりとりが途中のままでは・・・という気持ちから)裕里は、未咲の名前で鏡史郎に、住所を書かずに手紙を書いたのです。(返事はもらわないつもりで)
鏡史郎は未咲の実家の住所がわかっていたので、そちらの方に返事を出しました。その手紙を颯香と鮎美のふたりが受け取って、未咲の名前で返事を出します。
一方で、裕里は、ご近所の(義理の母の学生時代の)先生の家から、さらに手紙を送ったりしてて、(なぜその家に居たのかについてはいろいろ事情があるんだけど、はしょります)しかも封筒には、先生の家の住所を書いて送ったわけで・・・。
つまり、鏡史郎のところには、明らかに違う二種類の筆跡の「未咲」の手紙が、別々の住所から送られてきて。もう誰と文通しているのか、わけがわからない感じに。
鏡史郎は、久々に宮城県の母校に行ってみるという行動に出るんですよね。そこで偶然、颯香と鮎美が犬を連れて散歩しているのを見かける。
その完璧な映像・・・岩井ワールド。
デジャブを覚えたというか過去に迷い込んだような感覚に陥ったのではないでしょうか?自分だけがおじさんになって、未咲と裕里はあの頃のまま、思い出の高校にいる……。不思議な感覚……。見ただけで、すべてが腑に落ちるというか。
悪い男とつきあっても平気な中山美穂⁈
成長してからの未咲は、映画には登場しません。
とはいえ、高校卒業後、どうしていたかということは、語られています。
大学で鏡史郎とつきあった期間が一時期があり、別れた後、大学でかなり怪しいやつと思われていた豊川悦司演じる阿藤という男と恋に落ち、周囲の反対を押し切って駆け落ちしたらしいです。家族との連絡も絶って、幸せに暮らしていたのかと思いきや、あるとき音信不通だった実家に未咲の娘・鮎美からのSOSが来る。鮎美には暴力の跡が………。阿藤は行方をくらましてしまい、二人は実家にかくまわれることになったのですが、未咲は心を病んでしまったのか、その後自ら命を絶ってしまったという…。
阿藤ってどんなに悪い男なのだろうと思うけど・・・。
二種類の未咲手紙の謎を解くため、鏡史郎は、未咲が以前住んでいたアパートに向かいます。すると、当の阿藤は、同じアパートでしれっと別の女性(中山美穂)と暮らしていたんですよね、いたって平和に……。このショックは結構大きい。
どういう人格の人なのか複雑すぎて分からないけど、誰かにだけ暴力的で、別の人には普通の夫になれる人………阿藤。
もしかしたら、暴力的な男が相手でも、そうさせないだけの何かを持っている女性がいるってことなのか。中山美穂は確かに、さばさばしていて、きっぱりしていて、すでにもう人生を悟ったようなそんな雰囲気をうまく演じていたけれど。
確かに迫力あるバランスだわ。
豊川悦司、演技の幅が広いなあ。繊細な芸術家っぽい役もいいけど炭鉱の男(「フラガール」)なども行けるし、今回も冷酷ないい加減さがいい感じに板についてました。
小説は「ラブレター」
救いは、いつも裕里が明るいこと。
娘も姪も明るいし。
だから、売れない小説家は、もう過去に立ち止まってはいられないよね。未咲への恋心をラブレターにしたためたように小説を書いて、作家になった鏡史郎は、スランプに陥っていたわけだけど、この事実を乗り越えて、次回作を書くはずだ。
こういうの、岩井監督の人生観なのかな。この映画も誰かへのラブレターなのでしょうか。
ダメな男と駆け落ちするような無謀な女性も、そこでダメでも、最後には幸せになれる……というような、ストーリーもいいと思うんだけど。でも映画監督とかにとっては、きっと、自分が無力だったあまりに、好きな女性を幸せにできなかった……という苦悩が、いい作品を作る原動力になったりするんだろうなあ。(勝手に想像ですけど)
裕里の気持ちも整理できたみたいだし。霊界からの手紙(未咲が出したことになっている)が、関係者に起こした奇跡というか・・・。
映像美と時空を旅する恋心の兼ね合いが、絶妙でした!良き。
<作品データ>
2020年・監督、原作、脚本:岩井俊二・撮影監督:神戸千木・美術:都築雄二、倉本愛子・音楽:小林武史
福山雅治はこの作品と「マチネのおわりに」での演技を評価され、2020年「第12回TAMA映画賞」の最優秀男優賞を受賞。受賞コメントの中で「高校生時代を演じてくれた神木くんのおかげです」と語っていました。
追記:森 七菜は2021月3月、日本アカデミー賞、新人俳優賞を受賞しました。